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風と陽と土の力を借りて|アーユルヴェーダ・リトリート開催レポート

秋分を過ぎて季節が大きく移ろう時、私たちの心と身体も変化を感じやすくなります。そんなタイミングで、沖縄・南城市の宿「mui‑旅と風のうつわ」で アーユルヴェーダ・リトリート を開催しました。

早朝の海辺の散歩、五感を整えるセルフケア、サトヴィックな料理ワークショップ、大自然の中での食卓──。参加者のみなさんと共に過ごす時間の中で、風と陽と土の「力」を感じながら、心身のバランスと消化力を整えるひとときとなりました。

この記事では、プログラムの内容や感じたこと、参加者と共有した時間の空気を、主催者としての視点から丁寧に紹介しています。読者のみなさんも、そこに漂う初秋の風や自然の空気を追体験できるような記事にしました。

日昇の96分前の起床、そして海辺の早朝の散歩

アーユルヴェーダにおける日々のセルフケアは、「ディナチャリヤ」と呼ばれ、これは「1日の過ごし方」という意味ですが、主に朝の時間帯に感覚器官のケアを色々行います。

視覚・聴覚・味覚・嗅覚・触覚。私たちはこの五感があるから社会と繋がることができ、環境を感じて生きています。五感が正常に働いていればさまざまな選択を誤ることなく行うことができ、喜びや驚きを心地よく感じることができるのです。

ディナチャリヤで頭や耳、足の裏をオイルマッサージしたり、鼻を経由して頭部を滋養したり、呼吸法を行ったりするのはこのため。美容のイメージが強いアーユルヴェーダのセルフケアですが、実は「個人が社会と心地よく感じるため」に心身をチューニングする手段なんですね。

そんなディナチャリヤ、最初に行うのは「早朝起床」。これは日昇の96分前である「ブラフマ・ムフルタ」の時間が推奨されています。2025年10月1日時点で東京の日昇時間は「5:36」96分前は「4:00」ということになります。

この時間帯の世界を想像してみましょう。人はほとんど起きていなくて、鳥をはじめとした動物たちが動き始めています。鳥がこの時間帯に起きてたくさん鳴くのは、空中の酸素濃度が濃いため。私たちもこの時間帯に起きると身体のプラーナ(生気)を新鮮なものに入れ替えることができます。呼吸法やヨガ、瞑想や勉強にも適した時間帯。

4:00起きはなかなか…という方も多いと思いますが、早朝起床ができるだけで、もう健康の土台づくりはいい感じでスタートしています。

muiでも早朝起床をしていただき、ウォーキングのため日昇より前の時間帯に玄関口で待ち合わせ。みなさん、ブラフマ・ムフルタの時間帯に起きて、爽やかに集合してくれました。

muiから徒歩15分ほどのところにある百名ビーチまでお話ししながらウォーキング。まだ真っ暗な中、太陽が昇る方へと歩いていきます。百名ビーチは沖縄でも有数の「天然ビーチ」人の手を介さずに自然の力だけでできた砂浜は柔らかくサラサラで、みんな何も言わずに裸足になりました。

インドでもそうでしたが、裸足で歩くだけで身体が本来の形に戻っていく感じがありますよね。

身体を軽くほぐしてから

片鼻の呼吸法。

たっぷり身体の中の空気を入れ替えてから、瞑想の時間を20分ほど味わいました。

沖縄のレモングラスで作った甘いチャイとおやつを楽しみながら、しばしおしゃべり。

オンライン料理教室でいつもご参加いただいていた生徒さんも来てくれていて、こうして対面でお話しできるのがとっても嬉しかったです。

muiまで戻ってさよならした時は、みんな集合の時とはまた違ったピカピカの顔になっていました。きっと良い1日になったのではないでしょうか。

心のケアとサトヴィック・フードの料理教室

昼間はお部屋で料理教室。

夏に蓄積するPittaは情熱のエネルギー。興奮したり、情動を感じたり、自分の胸にこんなにも熱いものがあったのかと驚くことの多い季節です。今年は9月に皆既月食や日食もありましたので、宇宙のエネルギーに影響されて心身の大きな揺れに戸惑った人も多かったと思います。

アーユルヴェーダでは人の心は「ひとつ」。
でも、その中に3種類の性質があり、日々の食生活や時節に影響されて微細に変化するとされています。身体よりも先に心は揺れるので、悪い方に転ぶこともあれば良い方に転ずるのも早いのです。

具体的には「rajas(激性)」と言って、突き動かされるように変化を求め、ブルドーザーのように物事を進めてしまい周りに土を蹴散らかすような誤った判断をする時もある。一方で、「tamas(停滞性)」と言って、これは動きがなく暗い部屋に閉じこもっているような心の状態。知っていたことも忘れ、変化しようという気持ちや前に進むこともできることも考えられなくなります。

夏の間はどちらかというとrajas優勢になることが多いのではないでしょうか。

こうした心の変化は、食生活、特に食事にとても大きな影響を受けます。今日食べた食べ物が、すぐに心に変化をもたらす。お酒を飲み過ぎたり肉食をして恐竜のように怒ってしまうこともあれば、白湯やお粥一杯で途端に静かな湖のような状態に戻ることもある、というのは実際に体験として思い出すことができる方も多いのではないでしょうか。

rajasでもなくtamasでもなく、静かな湖のような心、sattva(純性)優勢の心の状態になれるように、アーユルヴェーダではアルコールやカフェイン、肉魚などの食事を控え、菜食寄りでピュアな食材を用い、できたての食事を食べて、リズミカルな暮らしを送ることを推奨しています。

ただ菜食は、ヒンドゥー教がベースであるインドでは実践しやすいですが、伝統的に魚を食べ、発酵食品やお酒も身近な日本だと、どう実践して良いかわからないもの。今回の料理教室では、時折でもいいから菜食を取り入れながら、心のケアをすることをテーマにお届けしました。

前日に南條の道の駅で手に入れた新鮮な沖縄食材たち。沖縄はアーユルヴェーダでも特にサトヴィック(純性)な食材であるとされる瓜科野菜が豊富で嬉しい。

対面キッチンでお話ししながら料理を作っていきます。

チャパティは参加者の皆さんにも生地の成形から焼くところまで体験していただきました。

みんな上手だった。お家でぜひ、練習してくださいね。

できました!

作ったメニューはこちら。

  • 甘いナッツのチャパティ
  • 雑穀のキチュリ
  • ムング豆のダル
  • 冬瓜のオーラン
  • ゴーヤのアチャール
  • カボチャとレーズンのサラダ
  • ビーツのチャツネ
  • ピーナッツのポディ

美味しくて、たくさんお話しできて、私もとっても楽しかったです!

熱をリリースし、心身を滋養するアーユルヴェーダ夕食会

夜は近隣の方をお呼びしてアーユルヴェーダ夕食会。
吹き抜けの共有空間にある長いテーブルにお座りいただいて、まだ蒸しっとする秋の夜の風に吹かれながら気持ちのいい時間をシェアしました。

夜のmuiはしっとりしてなんとも色気のある空間。
照明は最低限で、足元が少し暗く感じるところもあります。
でもそれが本来の夜の姿。
薄暗い空間で目を凝らしていると、夜空に真っ白な上弦の月が浮かんでいてなんとも綺麗でした。

集った皆さんは、muiのある南城を中心に、飲食やものづくりなどこの土地で手仕事を手がける人ばかり。ruciの照明を作っていただいた藤本健さんや、muiの器作家さんなど、食とその周りの人たちにアーユルヴェーダのお食事を楽しんでいただけて光栄でした。

お作りしたメニューはこちら。

  • 食前の生姜
  • ルビースープ
  • レーズンとギーライス、ワダ
  • へちまのサンバル、うりずんまめのダル、冬瓜のオーラン
  • かぼちゃのサブジ、ゴーヤアチャール、すだちピクル
  • ビーツチャツネ、落花生のポディ
  • 紅芋ぜんざい、胡桃のバルフィとレモングラスティー

ビーツとアスパラガス、大根とにんじんで作るとてもシンプルなルビー色のスープから始まったコース。食べた後みなさんがホッと安心した表情になったのが印象的でした。

翌朝の体感はいかがでしたでしょうか?

風と陽と土の力を借りて、心身のバランスをととのえる旅のひと時

最終日の朝、muiの西さんとゆっくりお話ししました。muiは「たびと風のうつわ」と名前につけている宿。その名の通り、muiには日頃から特別なアクティビティプログラムなどは用意せず、ただ旅のうつわとしてその場を提供する宿です。

muiが位置する場所は百名という小さな集落で、歩いてみると本当に何もない。何もないけれど、よく目を凝らすと、そこはかつて稲作発祥の地であることや、今もその稲の藁で行う綱引きの行事があったり、海まで行けば魂が行き交う島「久高島」を見据えることができ、この土地ならではの特別な物語を身体で体感することができます。

歴史的な文脈もあって、魂の存在を感じやすい沖縄の土地。その熱く湿った土地は、普段東京や首都圏で忙しなくフワフワと生きる人の足を力強く引っ張り、その場にしばらく固定させて自分の心身のバランスを見つめる時を与えてくれます。

「旅は新しい風を連れてくるもの。静香さんの料理は何を食べていても気持ちが良く、自分の心身の変化を感じさせて、それは旅の途上で感じる変化と似ています」と西さんは言ってくれました。

「人の変化をコントロールしようとは思わない。ただこの場に訪れて、風を感じて、その人のタイミングで訪れる変化を楽しんでほしい。そう思ってこの宿を営んでいます」とも。

「リトリート」という言葉は今、日本でとても飽和状態にあって、あちらこちらで耳にします。アーユルヴェーダの体験は1回のトリートメントやちょっとした食事でわかりやすい変化が訪れるものではないので、しばし心身を休ませるという意味で「リトリート」を今回の企画につけましたが、わたしもそれはどういう形で提供するのが正しいのか、旅をしながら模索しながら作っていく3日間になりました。

けれども、暗がりの中で模索しながら作るプログラムになって良かったと、終えた今、思っています。快晴続きだったこの3日間、まだ夏の名残を感じさせる太陽の光も、着実な秋の訪れを感じさせる白い上弦の月も、その日にならなければ出逢えるとはわからなかった存在で、その全ての環境の力とこの場に集う人々の心で実現した清々しいプログラムになりました。

参加したすべての人が、次の季節に向けて安心してご自身の次の一歩を踏み出せることを心からお祈りしております。

温かくeatreat.を出迎え、快くご尽力いただき、一緒にこのプログラムを楽しんでくださったmuiの西悠太さん、美冴さんに心からの感謝の意を申し上げます。ありがとうございました。